「Meta広告のコストがどんどん上がる。iOSの影響? それとも競合が増えたから?」--米国でD2Cブランドの運用をしていると、毎週のように聞かれる悩みです。でも監査のたびに思うのは、原因の大半は外ではなく、意外にもアカウントの内側に転がっているということ。なかでも一番見落とされているのが、自社の広告同士が同じユーザーを取り合う「内部競合」です。
内部競合(intra-account competition)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本語のマーケティング情報ではほとんど見かけませんが、米国の上級運用者の間では、ここ数年でようやく深刻な問題として共有され始めています。しかも、対処に追加予算は一切不要。それどころか、整理するだけでCPAとROASが目に見えて改善する。地味ですが、費用対効果が非常に高い対策なのです。
なぜ「自社競合」が起きるのか
多くの広告主は、Metaの広告オークションに、ブランドや広告アカウントがひとつの買い手として参加していると思い込んでいます。ところが実際は違います。システムの仕組み上、個々の広告セット、さらに細かく言えば個々の広告が、それぞれ独立した「買い手」として同じ広告枠を競り合うのです。
つまり、同じアカウント内で似たようなオーディエンスを狙った広告セットを複数走らせていると、Metaから見れば「別々の広告主が同じユーザーを奪い合っている」のとほぼ同じ構図になります。これが内部競合の正体です。
特に多いのが、次のような運用です。
- 興味関心ターゲティングと類似オーディエンス(LAL)を別々の広告セットで同時配信している
- Advantage+ Audienceと手動オーディエンスを、特に理由なく並行して回している
- クリエイティブテストのために、同じオーディエンスを複数の広告セットに分けている
- リターゲティング用のカスタムオーディエンスと、除外設定をしていないプロスペット広告が同じ人にリーチしている
こうした重なりがあると、オークションのたびに自社の広告同士が価格を吊り上げ合い、必要以上にCPMが上昇します。予算は分散し、広告セットの学習も不安定になり、数字は少しずつ悪化していく。外からは見えにくいぶん、厄介な問題です。
米国で深刻化している背景
ここ数年、米国ではMetaがAdvantage+ Shopping Campaign(ASC)を強く推してきました。その流れで、多くのブランドが「ASCはAIに任せ、別途手動のプロスペット広告も回す」というハイブリッド運用に移行しています。
ところが、ASCのオーディエンスはブラックボックスです。手動キャンペーンと同じユーザーにリーチしているかどうか、広告主側からは正確に把握できません。Metaは「ASCと通常キャンペーンの重複は自動的に避けられる」と説明していますが、実際のアカウントデータでは、重複が起きていることを示す例は少なくありません。
さらに、複数の代理店や社内チームが同じ広告アカウントを触っている場合、アカウント全体のオーディエンス重複を誰も管理していないことがよくあります。各チームが自分のキャンペーンの数字だけを追うため、内部競合は誰にも気づかれないまま静かに進行します。気づいたときには、CPAがじわじわ上がり、リーチが伸び悩む状態に陥っているのです。
内部競合を見抜くための5つの兆候
私が広告アカウントを監査するとき、次のようなサインがあると内部競合を強く疑います。あてはまる項目がないか、ぜひチェックしてみてください。
- アカウント全体のCPMが上がっているが、季節要因や外部競争の激化だけでは説明できない
- 広告セットを増やすほど、アカウント全体のCPAが悪化する
- 特定のセグメントでフリークエンシーが高止まりしている
- 予算を増やしているのに、リーチが思うように伸びない
- 同じようなオーディエンスを使う広告セット間で、CPMに不自然なばらつきがある
特に2つ目は重要です。通常、細かく最適化しようと広告セットを分割するほど、オーディエンスの重複が増え、アカウント全体の効率はむしろ低下します。これは「がんばっているのに数字が下がる」典型的な原因のひとつです。
実際にあった改善例:予算は変えずにCPM18%減
以前、私が米国で支援していたあるD2Cブランドでは、オーディエンス重複率が40%を超える広告セットが同時に7つも走っていました。各担当者は自分の広告セットの数値を追いかけていましたが、アカウント全体では、同じユーザーに複数の広告が何度も競合し、CPMが少しずつ上がり続けていたのです。
問題が見えたあとは、やることは一つ。重複しているオーディエンスを統合し、除外設定を整理しました。それだけで、アカウント全体のCPMは18%低下し、ROASは22%改善しました。広告予算は一切増やしていません。同じ予算のまま、これだけ数字が変わる。内部競合の解消は、まさに「埋もれていたお金を掘り起こす」作業なのです。
アカウントを「ポートフォリオ」として捉え直す
ここで大切なのは、広告セットをひとつひとつ独立した施策として見るのではなく、アカウント全体をひとつの投資ポートフォリオとして管理するという視点です。
金融の世界では、同じリスクに二重で投資することは避けます。Meta広告でも同じです。同じユーザーに複数の広告セットで同時に投資することは、リスク分散ではなく、単なる自社同士の値引き合戦にすぎません。まずはその発想の転換が、改善の出発点になります。
1. オーディエンスの重複を監査する
Ads Managerの「オーディエンス重複」機能を使い、同時配信中のオーディエンス同士の重複率を確認してください。私の経験則では、重複率20%以上は統合候補です。まずは重複率の高い組み合わせを洗い出し、「なぜ両方必要なのか」を冷静に問い直してみること。
2. 広告セットを統合する
同じ目的・同じオーディエンスなら、複数の広告セットを作るのではなく、ひとつの広告セットの中で複数クリエイティブをテストする形に寄せていきます。今のMetaのAIは、広告セット内のクリエイティブ選択能力が非常に高い。昔のように広告セットを手で分ける必要性は、大幅に下がっています。統合によって学習データも集中し、配信の安定性も増します。
3. 除外設定を徹底する
購入者、サイト訪問者、既存顧客などを適切に除外してください。特にリターゲティングとプロスペット広告の重複は、内部競合のなかでもROASに直結しやすい部分です。カスタムオーディエンスの除外設定を見直すだけでも、アカウント全体の効率は大きく変わります。
4. CBO/Advantage+ Budgetを活用する
キャンペーン予算の最適化(CBO)を使うと、Metaが広告セット間の予算配分を調整し、内部競合を緩和してくれます。手動で予算を細かく分けるほど、無駄な自社競合は起きやすい。予算配分の判断をアルゴリズムに任せることは、内部競合対策としても有効です。
5. アカウント全体のKPIを監視する
広告セット単体ではなく、アカウント全体の「ブレンドCPM」「リーチ」「フリークエンシー」「ブレンドROAS」を追いましょう。内部競合が起きている場合、個別の広告セットは意外と好調に見えることがあります。でも、アカウント全体では静かに劣化している。部分最適ではなく、全体最適の数字を持つことが、問題を早期に察知するカギになります。
まず外ではなく、内側を疑う
Meta広告のコスト高騰を語るとき、多くのマーケターは「競合が増えた」「アルゴリズムが厳しくなった」と、つい外側に原因を求めます。もちろん外部要因もあります。でも、米国での実際の運用経験から言えば、CPMを押し上げている最大の競合は、同じアカウント内の自社広告であることが少なくありません。
広告アカウントをポートフォリオとして捉え、自社競合という無駄なコストを削ぎ落とす。地味に見えて、追加予算なしで成果を変えられる施策の筆頭です。広告費が厳しくなるほど、こうした「内側の整理」が差別化につながる時代になってきたと感じています。